妄想置き場

四十路間近でいまだにくだらない妄想ばかりしています。

 

Twitterなどでも妄想ツイートばっかりなのですが、140文字でおさまらない妄想はここに残しておくことにします。

 

ちなみにこれ以前の記事は過去の妄想たちです。失笑必至なのでヒマでヒマでどうしようもない時読んで頂けると幸いです。

おもいで

つつがなく年が明け、ゆっくり風呂に入って、テレビを少しだけぼーっと見て、もう寝ようかなと思っていた1時半過ぎに携帯が鳴った。着信音で誰からのメールかすぐ分かった。


【送信者】 大本 携帯
【件名】 あけおめ!
【本文】 おめでとう!卒業まであと少しだけど、楽しくやろうね!


クラスで少し孤立している僕に、こんなメールをくれる女子はのっちくらいだ。のっちはもう東京の大学に進学が決まっている。僕は親に頼み込んで、東京の私立を一校だけ受けるけど、たぶん受からないだろう。そのことはのっちにも言っていない。


【件名】 Re:あけおめ!
【本文】 あけましておめでとう。・・・


どう続けるか迷っている。本当は書いて送信してしまいたい言葉がある。

「卒業までに、なにか思い出作りたい」

ふたりで、とは書けないまでも。だけど、こんなこと書いて変に思われないだろうか。無難に「卒業までよろしくね」くらいでいいんじゃないかな。いやでも・・・。何度も文字を打っては消しているうち、もう時計は2時を回ってしまっていた。

もうのっちも寝ているかもしれない。こんな時間に携帯鳴らすんだったら、明日また考えよう・・・と携帯を閉じようと思った瞬間、携帯に着信が来て「わっ!」と声をあげてしまった。

画面に「大本 携帯」の文字。ドキドキした。一瞬にして喉が渇いた。おそるおそる出た。

「・・・もしもし?」
「もしもし起きてた? こんな時間にごめんね」
「や、や、まだ起きてたから大丈夫」
「メール見たぁ?」
「う、うん。でも気付いたの遅くてさ、でさ、あの、もう時間も時間だし、と思って・・・」
「ふふ、すごい早口(笑) あけましておめでとうございます」
「お、おめでとう」
「今年もよろしくお願い申し上げます~。ふふ」
「うん。こちらこそ・・・」
「・・・あっ・・・あのね」
「うん?」
「・・・あのさ・・・紅白とガキ使どっち見た?」

他愛もない話を少しして「じゃあ3学期に学校でね」と電話は切れた。言いたいことの1%も言えなかった。きっと3学期が始まってもこんな調子で、あっという間に卒業式はやってくるんだろう。思えば高3の一年間はのっちとの距離ばかり測っていた。

卒業してもメールのやり取りくらいは少しの間、続くかもしれない。でもそのうち、のっちからメールは来なくなることを僕は知っている。のっちから来なくなったら、僕からメールすることはできないこともわかってる。

もっと話しておけばよかった。もっといろんな顔を見ておけばよかった。急に色々な後悔が押し寄せてきて胸が苦しくなった。

もう、寝よう。

寝支度をしていたら、またメールが来た。のっちからだった。


【送信者】 大本 携帯
【件名】 なし
【本文】 何度もごめんね。さっき言えなかったから・・・。卒業までに君と思い出作りたいよ。ダメかな?


心臓がきゅうっとして身体が熱くなった。少し泣いてしまった。メールで返信じゃいけない気がして、僕はのっちに電話をかけた。

卒業後の未来に希望なんてあまり持っていない。ただ、これから作るふたりの思い出があれば、なんとかやっていける気がした。君がいずれそれを忘れてしまうとしても。

駐輪場にて

夕方、駅前の駐輪場で「コラッ!」と背後から声をかけられた。

「その自転車、本当に君のですか? ふふ」

振り向くと秋らしい私服姿ののっち。学校で見るのとは別人みたいで急にドギマギしてしまう。

「これから塾?」
「う、うん、大本は?」
「私はスーパーでお買い物」
「そっか」
「・・・ねえ、君の行ってる塾ってさ、どう?」
「どうって?」
「うーん、なんかさ、私のとこレベル高くって」
「どうだろ・・・僕がなんとかついていけてるくらいのとこだよ」
「あ、それなら私だったら余裕かも!」
「なんだよそれー」
「へへ。パンフレットとかあったら今度くれない?」
「じゃ、じゃあ明日、学校に持っていくよ」
「よろしくー! 塾でもクラスメイトになるかもね」
「・・・」

返事に詰まったその時、少し冷たい風が吹いた。
身をすくめたのっちが「じゃあ、またね」と歩いていった。

「うん、じゃあ明日」

その声はのっちに聞こえたかどうかわからない。
風さえ吹かなければもう少し・・・と思ったけど、授業の時間も迫っていた。
自転車の鍵をかけ忘れたまま、僕は急ぎ足で塾へ向かった。

いつになったら、のっちに志望校を訊けるんだろう。